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『世界史の構造』

柄谷行人(岩波書店)

 

柄谷行人の本は分からないなりにずうっと読んできた。
この分厚い本は、今までよりもずうっとわかりやすく書かれている。
『マルクスその可能性の中心』『日本近代文学の起源』あたりを読んでいたときには、いったい私はどこに連れて行かれるんだろうというどきどき感とともに、それまで出会ったことのない考え方を見せられてきた。
この本ももちろん同じようにわくわくして読めるのだが、最初に世界史を読み直すための分析の道具をきちんと説明してくれているのがわかりやすいところなのだろう。
大きな道具というのは「交換様式」である。
交換様式A→互酬(贈与-お返し)
交換様式B→略取-再分配
交換様式C→商品交換
交換様式D→交換様式Aを高次元で回復する自由で同時に相互的な交換様式、実在しない
それらによって、現在の世界、すなわち「資本=ネーション=ステート」がどのように成り立ってきたのか、ということを解きほぐす。
人類の発祥から現在までを、交換様式で読み解いていくのだ。

 私がここで試みたいのは、異なる交換様式がそれぞれ形成する世界を考察するとともに、それらの複雑な結合としてある社会構成体の歴史的変遷をみること、さらに、いかにしてそれらを揚棄することが可能かを見届けることである。
私は世界史がよくわからない。
断片、すなわちいくつかの事件(「カノッサの屈辱」とか)は分かるのだが、それがどのような背景で生じたのか、ということが理解できない。
残念ながら頭が悪いのだ。
そんな私にこの本はマクロな視点、しかもたぶん今まではあまりなかったような視点から歴史を描き出してくれる。
学生時代こんな教科書があったら世界史をもっと好きになっていただろう。
もちろん、この本は交換様式の視点から世界史の構造を明らかにした上で、現代の資本主義、ナショナリズム、国家のきっちり連携した三つの環を壊すためにどうするか、ということが最大のテーマだ。
つまり、革命はどのように成し遂げられるか。
佐々木中がいうように、暴力革命なんて革命のうちの一方法に過ぎない。
著者も過去の革命の失敗の理由を挙げながら、新しい革命について考える。
この辺はおもしろいけど、私にはよく分からない。もう少し勉強が必要である。
ただ、この本がすごいのは世界史や革命だけでなく、宗教や哲学、とにかくいろんなことが書かれていて、テーマを構成する細部におもしろさを感じるところだ。その意味では小説的でもある。
いろんなところに引用したい文章がちりばめられている。
官僚制については、私たちの常識を転倒させるようにこんな風に書く。
 一方、国家の官僚制についていえば、ネオリベラリスト(リバタリアン)は、それを「民営化」あるいは「市場経済原理」によって解消すべきだと主張している。官僚制は非能率的であり、それを企業と同じ基準でやれば、能率が上がり、官僚は縮小されるだろうというのだ。しかし、民営化によって官僚制を解消できるという考えは欺瞞である。私企業そのものがすでに官僚制的なのだから。私企業が官庁よりも目的合理的にみえるのは、それが官僚制的でないからではない。何よりも、その「目的」が資本の自己増殖(利潤の最大化)という、明白かつ単純なものだからである。
しかし、利潤という計算可能な目的をもたないか、あるいはもちえない領域にかかわる公的官僚に、そのような目的合理性を強制することはできない。ゆえに、公的官僚制だけが官僚制であると考え、それを民営化によって滅ぼせると考えるのはまちがいである。そのような目的合理性の強制によって生じるのは、官僚制の消滅ではなく、単にもっと徹底的に目的合理的となった官僚制なのである。
こういうのを読んじゃうと、本のテーマとは別に、柄谷行人はやはりかっこいいと思ってしまうのである。
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