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『池澤夏樹、文学全集を編む』

河出書房新社

 

池澤夏樹さんが編集に携わった河出書房新社の『世界文学全集』と『日本文学全集』は、『源氏物語』の中巻、下巻の刊行をもって完結します。
この本は、その全集発行の裏話や、関係した作家、翻訳者の方々のエッセイ、対談、講演などがつまっています。

文学全集を作る話というと、丸谷才一さん、鹿島茂さん、三浦雅士さんの『文学全集を立ちあげる』という本を思い出します。

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この本に入っている架空の文学全集リストは、私が本を読み進めていくうえでナビゲーターになりました。
池澤さんは、その丸谷さんが亡くなったことが文学全集を引き受けた要因になったと言います。

この文学全集という企画を受けた理由の一つに、丸谷才一さんが亡くなったことがあります。ぼくは丸谷さんの文学観を非常に信用していて、だいたい彼の言うとおりに読むべきものを選んできた。だから丸谷さんが亡くなって、たいへん悲しく残念でしたが、そうだ、ご本人がいらっしゃらないんだから、いまならば丸谷主義を標榜して収録作品を選ぶことができると考えました。(「対談 大江健三郎×池澤夏樹」)

先日亡くなった石牟礼道子さんと池澤さんの対談もあります。
石牟礼さんの作品は、唯一この全集の両方に掲載されています。
池澤さんは自らが書いた『苦海浄土』(「世界文学全集」Ⅲ-04)の解説についてこう言います。

僕は、世間の人たちが読み違いをしたり、長い本だから敬遠したり、「どうせ公害の話でしょ」で済ませたりする、そういうところを「そうじゃなくてこっちですよ。入り口はこっちですから、ここから入っていくと、こういうふうに面白いですよ、そんな簡単な話じゃないです」と、世間様の手を引いて連れて行くことがしたかったんです。(『対談 石牟礼道子×池澤夏樹」)

私が『苦海浄土』を読まない理由がまさに「公害の話」で「長い」からだったので、まいりました。
読まないと。

斎藤美奈子さんの『文学全集とその時代』を読むと、昔はどの出版社もこぞって文学全集を出していたことに驚かされます。
そういえばうちの親は文藝春秋の「現代日本文学館」を揃えていましたっけ。
全部読んでやろうとがんばったことを思い出します(挫折しましたが)。

私自身は両全集を通してまだ『オン・ザ・ロード』(「世界文学全集」Ⅰ-01)しか読んでいません。
『ブリキの太鼓』(「世界文学全集」Ⅱ-12)は買ったものの途中でほっぽらかしてあります。
この本は、ある意味両全集のパンフレット、カタログなので全集すべてを読みたくなるのですが、特に読みたくなったのは次のとおり。

○世界文学全集
・Ⅰ-06『暗夜/戦争の悲しみ』から『戦争の悲しみ』。
池澤さんが「ベトナム戦争というと、ティム・オブライエンの『カチアートを追跡して』があり、開高健の『輝ける闇』がありましたが、実はベトナム戦争について、小説で一番いいもの」と言っています。
・Ⅲ-04『苦海浄土』

○日本文学全集
・01『古事記』
池澤さんの訳について大江健三郎さんが「直接われわれの中に入ってくる翻訳」と言っています。
・03『竹取物語/ 伊勢物語/堤中納言物語/ 土左日記/更級日記』
どれも面白そうですが、特に「土左日記」。堀江敏幸さんが謎ときをしながら翻訳しているらしいので。
・30『日本語のために』から永川玲二「意味とひびき──日本語の表現力について」
柴田元幸さんが「現代日本語の限界と可能性を」「多面的に、説得力豊かに説いていく筆致は本当に素晴らしい」と絶賛しています。

全集といっても昔のように教養主義的に堅苦しく考えず、面白そうなものをピックアップしながら気楽に読んでみるのがよさそうです。
昔の全集と違って、店頭での衝動買いを促すために箱に入ってないんだそうですよ。

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