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『競売ナンバー49の叫び』

トマス・ピンチョン

 

同じ本を繰り返し読むタイプではないのですが、この本は五回くらい読んでいます。

『重力の虹』や『V.』は自分としては一応読んだことにしていますが、難しすぎてほとんど読み飛ばしているのがほんとうのところ。

この小説はピンチョンの中ではわかりやすいという評判になっており、実際おもしろい。

 

サンリオ文庫から志村正雄さんの訳により出版された際、すぐ手に入れて読みました。

難しかったけれど、それまで読んだどの小説とも違う、と興奮しました。

当時、島田雅彦さんや小林恭二さんがやけに絶賛していたのを覚えています。

サンリオ文庫はなくなりましたが、その後筑摩書房から単行本としてあらためて出版されました。

もちろん購入。

新潮社からのトマス・ピンチョン全小説の一冊として出た佐藤良明さんの訳ももちろん購入しました。

 

 ある夏の午後、タッパウェア・パーティから帰宅したミセス・エディバ・マースは、フォンデュの中にたっぷり入ったキルシュ酒の酔いもまだ醒めやらぬ頭で、自分が、このエディバが、ピアス・インヴェラリティの資産の遺言執行人(エグゼキュター)──女だからエグゼキュトリス?──に指名されていたことを知った。

新潮社版の書き出しはこんな風に始まります。

情報量の濃い文章が最後まで続きます。

主人公のエディバが遺言執行人として遺産を調べ始めると、謎の組織が徐々に現れてくる……

志村さんの訳では巻末に膨大な「注」があり、それを読みながら読み進めるのです。

小説はエディバが次から次へと現れる謎を解明していこうとするのですが、小説の文章自体に謎が埋め込まれていることを「注」により教えられます。

人名やバンド名なども何かの暗喩だったりして、簡単に読み飛ばせない。

小説が進むにつれ、自分が謎と思っていることが自分のパラノイアが生み出したことかもしれない、とエディバは考えることになります。

それは読んでいる「私」にも言えることでもあることに気づかされます。

 

書き出しから美しいエンディングまでテンションの高い文体、構造。

私にとっては完璧過ぎる、理想の小説です。

これからも読み続けていくことになるでしょう。

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