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『会社法入門』だって読んでみた

『会社法入門』神田秀樹 仕事の関係で読んでおかなくてはいけなかった本で、いままで読んでいたものとはずいぶん傾向が違う本だけど、とりあえず書き込んでおきます。 内容はかなりわかりやすく書かれていると思う。仕事の関係で(とさっきも言ったが)会社の経理やらについて考えることがあり、その一環として2005年に制定された会社法についてもひととおり頭に入れておく必要があった。 項目をコンパクトにまとめつつ、理解しやすく書かれているのだが、一方で著者は単純な教科書的な書きっぷりはしないで(新書というメディアという点もあるのだろうが)、微妙におもしろがって書いたりしている。

そのゆるいところがちょっとよい。

例えば、この会社法というのは全979条(成文時に1条減っていて実際には978条しかない)という膨大なものなのだが、その成立の過程はいろいろ複雑で、その部分の象徴的なものとして参議院法務委員会の審議の議事録を抜粋して掲載している。 民主党の簗瀬進議員が時の法務大臣の南野(のうの)智恵子とやり合っている部分で、要は簗瀬議員はこんな膨大な法律を議会が短時間で審査することができるんですか?と問うているのに対して例えばこんな感じ。

 簗瀬議員 (中略)関係資料として出されたもののページ数を足してみますと7840ページなんですね。大臣、これお目通しはどの程度なさったんでしょうか。 法務大臣 全部読ませていただいたというと、うそになります。でも、要所、要点についてはいろいろレクチャーも受け、関心を持って聞かせていただきました。

ここだけ読んでもかなり面白いのだが、この議事録抜粋のあと筆者はこんなことしか言わない。

「なぜ、いま新会社法なのか」と問われれば、すでに述べたとおりの背景の中で偶然的な(そして複雑な?)事情が重なった歴史の所産であるというのが私の実感である。(p41)

いろいろ著者も不満なんだろうなあ、だけどできちゃったものはしょうがない、それを最善としてやっていくしかない、というニュアンスが若干かいま見えるようではなかろうか(著者はこれだけの法律を作り上げた法務省の担当官には敬意を表している。念のため)。

つまり時間をかければきっともっといい法律はできるのかもしれない。

しかし株式会社という形態が数十年前から見てグローバル化やらIT化やらで明らかに変化してしまっている中で、拙速と言われても変えなければならない、という部分は法学者としてはやむを得ない、と考えるしかないのだろう。

変えなければ株主が保護されないし、株主が保護されなければ会社に資金を出そうとする者はいなくなるし、資金を出す者がいなくなるとひいては日本経済の発展にたどりつかないんだから、ということなんだろう。 「あとがき」ではこんな言葉が出てくる。

 ただ一方で、これは大学で授業をしてみての感想であるが、今回の会社法の条文を日本語として読むことだけでは、実際のイメージをつかむのは難しい上、その内容もよく理解できないと思われることである。会社法の条文を読み始めてしばらくして、私には数学の歴史が思い浮かんだ。ゼロの発見にせよ、あるいは17世紀の微積分革命にせよ、それは言語(数学言語)の革命でもあった。新しい会社法の条文は、21世紀にふさわしいルールを書ききろうとしたときの日本語という言語自体の限界を示しているように思う。

つまり、従来の日本語(特に法律の文章というのは厳格だから新しい表現方法などは使いづらそうだ)で、新しい会社制度、先ほど言ったグローバル化やらIT化についてを言葉にして行くという作業はかなり難しい作業であり、むしろどだい無理な作業なのだと言ってもいいのかもしれない。

これってウィトゲンシュタインの言っていることととても似ているように思ったのだけれど。

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